1937年公開、P.C.L.映画製作所で製作された映画『白薔薇は咲けど』で主人公・篤子(入江たか子)が休日に一人で遊園地に出かけるシーンがある。東京横浜電鉄東横線に乗って多摩川園に行く。駅名が明記されたものは写ってはいないが、駅前の様子は多摩川園前駅(現・多摩川駅)のように思われる(下記のTwitter投稿画像で多摩川園前駅に写っているのはキハ1形のように見える)。その後のシーンでは河畔で寛ぐなどのシーンもあるので物語上は多摩川園に行ったと理解して間違いはないだろう。主人公が往路で乗車していたのは「キハ1形」気動車である。1937年に導入されたガソリンカーだが、ガソリン価格高騰のため東横線では短命に終わったという車両。これが走っている姿が写っているのである。乗車する前のシーンでは東横百貨店と直結した東横線渋谷駅が写るのも貴重。
Twitterで公開されているスクリーンショットを引用します。投稿されている文章では「キハ1電車」とありますが、電車ではなく「気動車」です。「多摩川園駅」とありますが映画撮影当時は「多摩川園前駅」でした。細かくってスミマセン。
1937年の伏水修監督映画『白薔薇は咲けど』。主演は入江たか子さん、お針子篤子の休日を挟む3日間の機微を丁寧に描く。休日に独り多摩川園に。ロケ地の大田区田園調布「多摩川園」の戦前の風景。賑やかな多摩川園駅前付近、”ウォータシュート”などの遊戯施設、多摩川川沿いの風景など貴重な資料。 pic.twitter.com/ToYAaB0cZu
— マヤの暦・人生の自由研究 (@syowa40stvdrama) August 2, 2020
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2024/5/17追記
いつの間にか引用元のX(Twitter)の投稿が削除されてしまいました。マヤの暦・人生の自由研究 (@syowa40stvdrama)さんの投稿を検索すると本作のキャプチャがいくつか再投稿されているようなので各自で検索してみてください。
さて、映画ではTwitter画像のような「ウォーター・シュート」の映像が写ります。果たして多摩川園に「ウォーター・シュート」が存在していたのだろうかという疑問が湧いてきました。Web検索による情報収集を中心に調査してみたのでご報告。
戦前の多摩川園に「ウォーター・シュート」は存在したの?
Web上で多摩川園の画像検索キーワードを「多摩川園 戦前」としてyahooで検索実行をしてみると戦前の写真や園内図などの画像が何枚かヒットした。いずれを見ても「ウォーター・シュート」らしきアトラクションは見当たらない。池はあるのだがボートに乗るだけのようだ。「陸上波乗り」と書かれたボート型の乗り物が写っている写真はあったのだが、よく見てみると傾斜をつけたレールの上を滑降するだけのもののようだ(水の中には突っ込まない)。水がないので「陸上波乗り」と称していたのだろう。短距離のジェット・コースターのようだ。
絶対的な証拠はないのだが、どうやら多摩川園には「ウォーター・シュート」は存在していなかったようだ。では、映画内の映像はいったいどこで撮影されたのだろうか。
(お詫び)当ブログでは著作権がハッキリしないものは掲載しないようにしているので、お手数ではありますが、ご自分で画像検索してみてください。
戦前の「ウォーター・シュート」
戦前に「ウォーター・シュート」が設置されている所を調べてみると、東京付近では
- 豊島園に1927年に設置
- 大宮八幡園(現・杉並区の和田堀公園)に1940年(1938年説もあり)に設置『渋谷上空のロープウェイ』(夫馬信一著、柏書房)102ページに記述あり
の2箇所しか情報が見つからず。本映画は1937年公開なので大宮八幡園の方はまだ未完成。ということで撮影当時存在していたのは豊島園の一択となった。そこで今度は豊島園の「ウォーター・シュート」が写る戦前の写真等を探してみることに。写真だけでなく動画もアップされている。以下に紹介しよう。
- https://smtrc.jp/town-archives/city/shakujii/p03.html
- https://www.artagenda.jp/exhibition/detail/851
「1」のリンクで表示されるサイトに「ウォーター・シュート」の写真がある。ボートの上には白い体操服姿の船頭?らしき人物が立っている。また、発射口にはゲートが設置されている。「2」のリンクで表示される4/6番目の写真には発射口のゲートはない。年代によってゲートの有無が変化しているようだ。
先程引用したTwitterの中の「ウォーター・シュート」の発射口周りの壁などの形状を上記2つのリンク画像と比べるととても良く似ている。双方とも白い体操服姿の船頭が乗っている。
まとめ
以上のことにより、『白薔薇は咲けど』の「ウォーター・シュート」場面は豊島園でロケをしたと言って間違いはないであろう。篤子(入江たか子)が園内を散策する場面では「ウォーター・シュート」、「音楽堂」の場所を示す案内表示看板も写っている。「音楽堂」は「ウォーター・シュート」の池の近くにあることが園内案内図で確認できる。戦前のパンフレットなどは下記の伊田チヨ子さんのツイートにあるので見ていただきたい。素晴らしいコレクションです。
【🎡特集・戦前のとしまえん🎠】
— 伊田チヨ子(いたちよこ) (@chiyocooooo73) June 14, 2020
8月に閉園する『としまえん』を偲んで、戦前のとしまえんのパンフレットの画像を紹介していきます。
まずは開園した大正15年頃から!
練馬城跡に作られた豊島園。当時はまだ一部のみ開場で、全面開場したのは昭和2年から。
❤️以後のパンフレットはツリーに続きます! pic.twitter.com/tDGwpkGFDX
映画のストーリー上は多摩川園に行っているという体で話が進行するが、実際には多摩川園だけでなく豊島園でも撮影されていたようである。当時から存在する他の遊園地(向ヶ丘遊園など)でもロケをしていたのかもしれない。
私は、この作品の映像ソフトは持っていないので、映像を見直しての検証ができない。先日、国立映画アーカイブで一回鑑賞しただけなので細かい部分までは覚えていないのが残念。いつかソフトを入手、もしくはCS等で放送されたら見直して、もう少し突っ込んだ調査を行ってみたいと思っている。
今回の調査はひとまずこれで終了としたい。
【参考資料】
- 「渋谷上空のロープウェイ」(夫馬信一著、柏書房)102ページ
- 伊田チヨ子さん(@chiyocooooo73)のツイート
- マヤの暦・人生の自由研究さん(@syowa40stvdrama)のツイート
- https://twitter.com/syowa40stvdrama/status/1289781212051943424
- http://ysotake.movie.coocan.jp/abierto/pelicula/page047.html
- https://www.suginamigaku.org/2007/12/old-watershoot.html
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